私の町ではきょう雨が降った。
きたない男が中年のおばさんに違法の高層マンションの話をしている。
はにかんだおんなの子が歩く父親のひざを追って走った。
領収書がみ当たらず、スーパーマーケットの経理さんが困っている。すぐに、紫色の電卓を机の上から落とした。
本屋にならぶまんが誌に、新人漫画家の作品がたっぷり頁数を割いて載っている。
脚を傷めた高校生が、おさななじみの少女の死をのりこえ再びマラソンを始める話。
描いた漫画家のスタンスは【幸あるように想っている】。
その後、彼は全部で4作残したが、とうとうペンをおいてしまった。
路地の隅でさく紫陽花が、踏み切りから流れる突風でかたむいていった。
ときのなかで、踏み切りをとおり過ぎるひとたちの人生もように、わたしは何も望んでいない。