岩波文庫・藤平育子 訳・2011年10月(上巻)、2012年1月(下巻)刊行
九月の午後,藤の咲き乱れる古家で,喪服姿のローザが語り出す半世紀前の一族の悲劇.1833年ミシシッピに忽然と現れたヘンリー・サトペンは,無一物から農場主にのし上がり,ローザの姉と結婚,二人の子を得る.そのサトペン一族はなぜ非業の死に滅びたのか? 南部の男たちの血と南部の女たちの涙が綴る一大叙事詩.
奴隷制度が残る時代,ミシシッピの田舎町に,一代で百平方マイルの農場を作り上げたサトペンとその一族の物語.少年時代に受けた屈辱,最初の結婚の秘密,息子たちの反抗,近親相姦の怖れ,南部の呪い…….「白い」血脈の永続を望み,そのために破滅した男の生涯を,圧倒的な語りの技法を駆使してたたみ掛けるフォークナーの代表作.(以上、岩波書店HPより)
現代文学の巨峰
偏執的にうねる文体、フラッシュバック、時系列の錯綜、信頼できない語り手、意識の流れ……などなど、文学技法がごたごたに盛り込まれている。
「現代文学ってなあに?」と人から聞かれたら、迷わず『アブサロム、アブサロム!』を差し出せばいいだろう(嫌われるだろうが)。
フォークナーから強い影響を受けた中上健次は「紀州熊野サーガ」のひとつの到達点として『地の果て 至上の時』を書いたが『アブサロム、アブサロム!』と文体の粘度がとてもよく似ていると感じた。
1センテンス1センテンスの、その一向に終わらない文体の粘り気が、そのまま作品舞台の厚い暗雲をも表出しているようで、極めて技巧的であると共に、極めて情念的である。
ローザ・コールドフィールドに一番惹かれた
正直、プロットがどうとかあらすじがどうとかいう次元にない小説である。
そこらへん、詳しく説明しろと言われても困る。
とにかく、「何だかよく分からないけどスゲェ!」という小説だ。
ものすごい馬鹿っぽい表現だが、そう言うしかない。
私にとって「何だかよく分からないけどスゲェ!」という小説は、『アブサロム、アブサロム!』とメルヴィルの『白鯨』である。
ちなみに、登場人物で一番惹かれたのはローザ・コールドフィールドだった。
彼女についての叙述の、その怨念や密度の濃さが、読んでいて痛いほど伝わってきたのだ。

