感情移入するということ

人気作家が仕事場で殺され、その幼馴染と刑事の手記と記録が交互に著されてゆく。
登場人物に対する感情移入に、ミステリ的、という狭い見地ではなく、(倫理的という言い方は正しくないだろうが)もっと広い見地から警告を発している作品。

(以下少し内容に触れます)

私も、終盤まで人気作家に対して「冷酷なやつ」という先入観を抱いたままだった。

それは序盤で記述されていた「猫を殺した」という事実から(事実じゃないのだが)によるところが大きい。

いくら作中で「いい人」「立派な人」と書かれていても、こうした「残酷な行為」ひとつを書けば、そのイメージが何にも増して濃く刻まれる。

まあ作者はそれを逆手にとったわけだが。

本書で書かれる「悪意」そのものは、思わずはっとさせられるほどの感情ではないが、その悪意の表し方が非常に上手く、読後に寒々しいものを覚えた。