朝日新聞出版・柴田元幸 訳・2022年10月刊行

1726年にロンドンで刊行された『ガリバー旅行記』は、アイルランド出身の聖職者でジャーナリストのジョナサン・スウィフトが書いた4部構成の諷刺小説です。現在にいたる300年のあいだ、世界中の子どもと大人に読み継がれてきました。
次々と起きる出来事、たっぷりの諷刺、理屈抜きの面白さ!

本書は定評と実力をそなえた米文学者の柴田元幸が、「お茶の間に届くこと」を意識して、朝日新聞に好評連載した翻訳の書籍化です。

夏目漱石は『ガリバー旅行記』の諷刺の特質を論じて「古今の傑作」と高く評価し(『文学評論』「スウィフトと厭世文学」)、20日世紀の傑作諷刺小説『動物農場』や『一九八四年』を描いたジョージ・オーウェルも「飽きることなどまずあり得ない本」と賞賛しました(「政治対文学――『ガリヴァー旅行記』論考」)。

物語は嵐にあって船が難破、必死に泳いで辿り着いた島が小人国のリリパット。そして次には巨人国のブロブディングナグ、空飛ぶ島のラプータ、支配される島のバルニバービ、フウイヌムと呼ばれる馬たちが暮らす理想郷へと……4部構成で縦横無尽にすすみゆきます。

訳者解説では『ガリバー旅行記』の出たとこ勝負で縦横無尽に進んでいくストーリの面白さの特質が分析されています。

作品を創造的に描きこんで連載時より好評を博した挿絵の平松麻による口絵4頁つき。(以上、朝日新聞出版HPより)

穏健なる提案

最近、柴田元幸氏の新訳が出た、世界文学の古典である。

ジョナサン・スウィフトは、1667年~1745年に生きた、アイルランドの司祭・物書きだ。

『ガリバー旅行記』は1726年に出版された。

『ガリバー旅行記』という作品を知らない人はあまりいないと思うが、

「大昔の人が書いた牧歌的な童話でしょ?作者も子供好きだったとかじゃないの?」

といった印象がほとんどではないだろうか。

同じく柴田元幸氏の翻訳叢書で『ブリティッシュ&アイリッシュ・マスターピース』という著作があるのだが、

『アイルランド貧民の子が両親や国の重荷となるを防ぎ、公共の益となるためのささやかな提案』というスウィフトの文書が収録されている。

これは『穏健なる提案』とよく略称されるのだが、どういう内容かというと、

貧民の赤ん坊を食肉として売り出せば、柔らかくて珍味であり、人口問題は解決され、貧しい親には金もうけにもなって、一石三鳥の功徳がある

と説いたものなのである。

当時のアイルランドの貧困問題への解決策として提案したものらしいが、アイリッシュジョークの最たるものとして捉えればいいのか、何というか、私としては本当の本当に大まじめに言っているんじゃないかと思えるものがあり、冷や汗が出てくる。

17~18世紀の人ではあるが、あまりにも生まれた時代が早すぎたというか、ものすごく頭がいいと同時に、ものすごく変な人だったんだろうなぁと想像している。

成田悠輔さんとかひろゆきさんとか?

で、現代日本では、成田悠輔さんが日本の先行きや少子高齢化に対して「高齢者は集団自決すべきだ」と説いたり、

ひろゆきさんも、

「87歳の認知症患者が病院で歩いて、転倒したので病院は532万円支払え」という判決。 認知症患者は、ベッドに縛り付けて動けなくするのが正解ということですね。

とつぶやいていたりする。

私はこのお二人に対して全く擁護したり共感したりもしなければ、全く批判したりアンチである訳でもないのだが、

まあ、ジョナサン・スウィフトも、このお二人も賢い人であろうし、それと共に普通とは違う感性があるようで、国も歴史もこえて……似ているなぁ……と思ったのだ。

「歴史に残る大作家とそんな二人を一緒にするな」というお声もあるかもしれないが、どうしても一致するものを感じてしまったね。

肝心の『ガリバー旅行記』の話ではあるが、ものすごく頭のいい変人が、その想像力を全開にして書いたファンタジーであり、同時に、これ以上現実的なものはないくらい現実が書かれた小説である。

風刺という概念の「始祖」として、これからも読み継がれていくだろう。

ジョナサン・スウィフトのガリバー旅行記