平凡社ライブラリー・会田由 訳・1994年3月刊行

大地のように古く、森の木の切り口のように新鮮な、独特な言葉の響き――ジプシーの生活を主題とした、史上もっともスペイン民衆の心をとらえたといわれる詩集。解説=高場将美(以上、平凡社HPより)

フェデリコ・ガルシーア・ロルカという人

フェデリコ・ガルシーア・ロルカは詩人・劇作家である。

1898年にスペインのグラナダに生まれる。

若い時から天才的詩人として、友人の間に名声を博していた。

1933年には戯曲の代表作である『血の婚礼』が上演され、劇作家としての名声を確立した。

1936年にスペイン内戦が始まり、フェデリコ・ガルシーア・ロルカはファシスト政党であるファランヘ党員に捕らえられ、グラナダ近郊で銃殺された。享年38。

ロルカは銃殺の際、死の恐怖に怯え、命乞いをしていたという。

それは、そうだろう。

高らかに毅然と、自由と芸術を叫びながら散っていった……というストーリーに淫してはいけない。

夭折の英雄を崇拝するより、平凡な一作家の弱さを理解するべきだ。

『ジプシー歌集』とは

『ジプシー歌集』はフェデリコ・ガルシーア・ロルカの第三詩集で1928年に出版された。

「ジプシー」というのはさまざまな地域を渡り歩く移動型民族のことだ。

いまは「ジプシー」というのは差別用語だとされ、「ロマ」「ロマ民族」と表記するようにとされている。

フェデリコ・ガルシーア・ロルカは、己が祖国のイメージとフォークロアを、「ジプシー」という存在を象徴として見立てたのだと思う。

喚起されるのは、スペインの大地・空・草花・動物、そして人々の想いである。

ありありと情景がイメージされる詩文

「いちじくの木と 灼熱した騒音の狂った午後が、 傷ついた騎手たちの 太腿に力なく落ちる そして黒衣の天使たちは 西の空を飛んで行く。 長い三つ編の髪をして オリーブ油の心臓の天使たちが。」

読み終えて、私はさほど詩集というものを読まないので知った風なことはいえないが、これほど美しい言葉の連なりは稀有だと感じた。

おかしな言い方だが、実際のジプシーはこの『ジプシー歌集』で描かれているような民族性を持った存在ではないのだろう。

フェデリコ・ガルシーア・ロルカの中の「ジプシー」のイメージの生成に過ぎず、しばしば美化している、非実像的だという批判もあった。

ただ、それが作品の瑕(きず)になっているかといえばそうではなく、むしろフェデリコ・ガルシーア・ロルカの突出した詩才に驚かされる。

「おお、ジプシーたちの町よ! かつてそなたを見て、思い出さない者があろうか? わたしの額にそなたをさがし給え、 月と砂のたわむれだ。」

スペインの風土やジプシーの営為を思い浮かべながら読むのだが、そのあまりにも完成された詩文の美しさが、時空や人種をこえて、完全に言葉の美しさで構成された桃源郷のような地点へ、読者をいざなうのだ。

「水のない大地の上で 空には月がくるくる回る、夏がそのひまに虎と 焔の風評をまいた。」

フェデリコ・ガルシーア・ロルカのジプシー歌集