中公文庫・生田耕作 訳・2021年12月新装版刊行

あらすじ 仏人医学生バルダミュは第一次大戦で絶望し、暗黒遍路の旅へ出る。アフリカ、米国と遍歴を重ねたバルダミュは、パリ郊外で医院を開業するが――。

訳文が、原文のエクリチュールと「接地」していない

フランス文学の「裏名作」という評価を聞いていたし、タイトルやあらすじも自分のような中二病患者からすると大好物に思えたので、楽しみにして読んだ。

正直、読み切りはしたが特段の感動は覚えなかった。

どうにもこうにも……第一次大戦の苛烈さも伝わってこなかったし、登場人物の呪詛といったものも見えてこなかった。

『魔の山』最終盤の、第一次大戦の戦地に消えるハンス・カストルプの描写だけで、十二分に世界大戦の苛烈さに心動かされたというのに。

どうも『夜の果てへの旅』からは何も刺されなかった。

これに関しては、正直、訳文の問題かなぁ……と思ってしまった。

まあ翻訳の方が悪いということではなく、自分の教養やキャパ不足なのだろうが……。

翻訳者に対しては無条件でリスペクトしています

基本的に、翻訳者は憧れの職業である。

『泥棒日記』(新潮文庫)の朝吹三吉のあの鋭利で「高潔な」訳文や、『悪徳の栄え』(河出文庫)の澁澤龍彦のあの享楽的な訳文には感動を覚えたものだ。

しかし、『夜の果てへの旅』では、やはり原文とうまくフィットしなかったのかなぁと感じる。

もともと、俗語や卑語だらけということなので、上手に移し替えるのが難しかったのかな。